弁護士森田匡貴のブログ

法律的な記事を投稿するブログです。

離婚Q&A 2

久しぶりのブログ更新です。最近暑い日が続きますが、皆さま体調を崩さぬようご自愛ください。最近芸能人や国会議員の不倫のニュースが多く取り上げられましたが、不倫のリスクを考えてみました。
1 配偶者から離婚を請求された場合、離婚事由になり、逆に自分からは離婚を請求することが困難になる。
 ⇒不貞行為は法定の離婚事由になりますので、配偶者から離婚を求められた場合、自分としては離婚を望まない意向であっても、離婚せざるを得なくなる事態になる可能性があります。逆に不貞行為をした者は有責配偶者となり、有責配偶者からの離婚請求は裁判例上厳しい条件のもとでないとなかなか認められないので、自分が離婚を望んでいても配偶者が離婚を望まない場合はなかなか離婚ができない事態となります。
2 配偶者から慰謝料を請求される。
 ⇒不倫は不法行為に当たりますので、配偶者から精神的損害として慰謝料を請求されることになります。金額は不貞行為の態様や夫婦相互の資力、子の有無などによって左右されますが、数十万円から数百万円に至ることが比較的多いという印象です。
3 不倫の相手方にも配偶者から慰謝料を請求され迷惑をかける。
 ⇒不倫の相手方も配偶者がいることを知りながら肉体関係を続けた場合、配偶者から慰謝料を請求されます。配偶者としては怒りの矛先が自分の夫または妻ではなく、不倫相手に向かうというケースが比較的多く、不倫相手に慰謝料が請求されるというケースは私自身よく目にします。
  以上のとおり、不倫のリスクは様々あり、誰にとっても不幸になるケースも多いです。人を好きになる気持ちを律することは難しいこともあるかもしれませんが、一時の感情に流され、安易に関係を持つことは慎んだ方がよいといえそうです。

さて、前回に続き離婚Q&Aを掲載します。

Q 離婚する際に養育費の合意をしてしまったが、後から変更できるの?
A 合意後に生じた事情の変更等があれば、できます。例えば、再婚して新たに扶養家族ができれば、義務者は養育費の減額を求める事由になりますし、子が私学に通う必要性が生じ、相手もこれに了承している場合などは権利者が養育費の増額を求める事由になり得ます。

Q 養育費や婚姻費用は算定表どおりもらえるの?
A 算定表はあくまで標準的なケースを想定したものですので、個別の事情を反映しているものではないので、注意が必要です。例えば、算定表では子が公立の学校に通った場合の費用が想定されているので、私学に通う場合はさらに婚姻費用や養育費がかかることになります。

Q 親権をとりたいのだけど、やはり母親が強いのでしょうか?
A 原則として、母親が優位にはなります。しかし、母親よりも父親との同居期間が長いなど、子と接している時間の長さ、密度などにより父親の方が親権者にふさわしいと判断される場合もあります。子が自分の意思を明確に伝えられる年齢になっている場合は、子の意思が尊重されます。

Q 私が婚姻前に所有していた財産も相手に財産分与としてあげなきゃいけないのでしょうか?
A 財産分与の対象は婚姻時から夫婦の協力関係が破綻したといえる別居時までに夫婦共同で築いたと評価できる財産です。したがって、婚姻前に有していた財産は財産分与の対象となりません。

Q 既に支払われた夫の退職金も財産分与の対象になるのでしょうか?
A 財産分与の対象となるのは、前述のとおり婚姻時から別居時までに夫婦で築いた財産です。退職金は給料の後払いの性質を有しているものと一般に解されているため、夫の給料が夫婦共同で築いた財産と評価され、夫婦の共有財産として財産分与の対象になるのと同様、婚姻時から別居時までに形成されたものであれば、財産分与の対象となります。もっとも、別居後に形成された部分については財産分与の対象外となるでしょう。

 

離婚Q&A その1

このところ色々と仕事も私生活もバタバタしてまして、ブログ更新ができませんでした。
忙しいという言い訳だけはしない大人になりたかったのですが・・・言い訳しちゃいましたね。
さて、私は最近これまでの自身の離婚事件の経験を生かそうと、離婚弁護士サーチというサイトに登録させていただきました。
http://rikonbengoshi-search.com/suzuki/

当サイトでは、離婚に強い弁護士とうたっていながら、自分のブログには離婚の記事を載せていなかったなぁと最近気づきまして、暫くブログでは、離婚問題の解決に当たって皆さんが疑問に思うであろうQ&A的な記事を載せていこうと思います。
離婚で悩まれている方の参考になれば幸いです。

Q 離婚を決意したときに考えなければならないことは?
A 1 まずは、離婚について相手が同意しているか、話し合いができているかを考え、相手方の同意が得られるのであれば協議離婚、得られない場合は裁判手続きによる離婚をする必要があります。
  裁判による離婚をする場合は、法律上の離婚事由(婚姻を継続し難い重大な事由など)があることが必要となります。また、離婚訴訟を提起する前に離婚調停をしなければならないので、留意ください。
 2 次に子どもに関することです。未成年の子がいる場合は、親権者を誰にしたいか、養育費はいくら求めるか、監護権を失う場合は面会交流をどのくらいの頻度で求めるかなどを検討します。
 3 そして、お金に関することです。財産分与、慰謝料、年金分割(合意または裁判所の手続きによって定められた按分割合に従って婚姻期間中の年金を分割できる。)、婚姻費用分担(別居後、離婚成立までの婚姻中の生活費の分担)をどうするか検討します。

Q DV被害に遭ってます。避難する方法など相談したいのですが・・・
A 配偶者暴力支援センター
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/01.html
や各地のシェルターに問い合わせて事情を話し、助言を求めてください。
一時的な避難先等を紹介してもらえ、今後の生活に必要な情報提供をしてもらえます。また、各種関係機関に橋渡しする窓口となってくれます。
裁判所への保護命令の申立ても検討すべきです。

Q 別居する際、夫(または妻)のキャッシュカードを持ち去り、夫(または妻)名義の預金を引き出して使うことは違法でしょうか?
A 当該口座が夫婦がともに使用している口座であれば、名義人が相手方であっても原則として違法にはなりません。この場合は実質的には夫婦の共有財産とみなされ、共有財産を自分の持分を超えて持ち出したに過ぎないと解されるからです。
判例でも、「婚姻中の夫婦の一方が、夫婦共有財産について、当事者間で協議がされるなど、具体的な権利内容が形成されない限り、相手方に主張することのできる具体的な権利を有しているものではないと解すべきであるから、・・・夫婦共有財産である原告名義の預金を原告に無断で払い戻した・・・としても、・・・具体的な権利が侵害されたということはできず、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできない」(東京地裁平成25年4月23日判決)、「婚姻関係が悪化して、夫婦の一方が別居決意して家を出る際、夫婦の実質共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情のない限り違法性はなく、不法行為とならない」(東京地裁平成4年8月26日判決判タ813・270)などの判断がなされています。
もっとも、持ち出した部分は財産分与の際に斟酌されますので、財産分与でもらえる額はその分調整されることになります。

Q 何年くらい別居していると離婚が認められるの?
A ケースバイケースなところもありますが、通常4年から5年程度の別居期間があれば、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があると判断され、離婚が認められることが多いようです。
もっとも、有責配偶者からの離婚請求の場合はより長期でなければ認められません。10年間の別居であっても離婚が否定された裁判例もあるくらいです。
逆に有責配偶者が離婚請求される場面では、比較的短期間の別居でも離婚が認められる傾向にあります。2年4か月という短い別居期間でも離婚が認められた判例もあります。

Q 有責配偶者って何?
A 夫婦関係が破綻したことにつき、責任を負うべき配偶者を指します。
具体的には不貞行為や暴力行為が典型例ですが、これに限られるものではありません。
有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、非常に厳しい条件が課せられるので、留意が必要です。

 

 

 

 

 

保証会社が賃料を代わりに支払っていても賃貸借契約は解除される?

こんにちは。3月に入っても寒い日が続きますね。体調を崩しがちな時期なので、皆さま体調管理には十分気を付けてください。そういえば、インフルエンザの予防接種が今年からワクチンが1種類増えて値段も上がったようですね。

さて、今回は建物賃貸借契約で、保証会社が賃料を代位弁済したとしても賃借人自身の賃料不払いの事実に消長はないとして、賃料不払いに起因する同契約の解除を認めた大阪高裁平成25年11月22日判決(判時2234号40頁)を紹介したいと思います。
私は仕事上、建物明渡請求事件に携わることが多いのですが、同判決は賃貸借契約と保証会社の代位弁済の関係についてなかなか興味深い判断をしており、建物明渡実務に与える影響も大きく、重要な判決です。

事案は次のとおりです。
X1は、Yに対して、マンションの一室(本件建物)について、期間を2年間、賃料月額7万1000円、毎月末日限り翌月分支払い、賃料、共益費等の諸費用を2ヶ月以上滞納したときは契約を解除できる等の約定で賃貸しました。
また、X2は、同月25日、月額賃料等の12ヶ月分を上限とするYとの保証委託契約に基づきX1との間で本契約に基づくYの債務について連帯保証しました。
その後Yが賃料等の支払を怠ったため、保証会社であるX2がYに代わってX1に賃料等を代位弁済をしました。X1はYに対し、賃料等の不払いを理由として本契約を解除したとし、本件建物の明渡しを求め、X2はYに対し、保証契約に基づき代位弁済した求償金39万円等の支払いを求めました。一審ではX1・X2の請求が認められましたが、Yが控訴しました。

Yは、X2が保証委託契約に基づきX1に対し平成24年4月分から平成25年1月分までの賃料は代位弁済しているから、Yの契約解除時点での不払賃料は平成25年2月の1ヶ月分にすぎず、これでは信頼関係を破壊しているとはいえないので、解除は無効であるなどの主張をしました。
これに対し、同判決は、賃貸保証委託契約に基づく保証会社の支払いは代位弁済であって、賃借人による賃料の支払いではないから、賃料不払いという賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかであるとして、上記Yの主張を排斥し、X2が代位弁済した分も含めて平成24年4月分から平成25年3月分までの賃料等の不払いの事実があると認定し、X1とYとの信頼関係は破壊されているとして、X1・X2の主張を認め、Yの控訴を棄却しました。Yは最高裁に上告及び上告受理申立てをしましたが、上告棄却・上告不受理の決定が出て、本判決が確定しています。

この判決をどう見るべきでしょうか。通常、民法の原則では、保証人が保証債務の支払いをすれば、保証債務が消滅し、債権者が主債務者に対し有していた保証の対象となっている債権は、弁済による代位の規定(民法500条)により保証人の主債務者に対する求償のために保証人に移転します。そうすると、保証会社が賃借人の賃料等を代位弁済することにより、賃貸人は賃借人に対して有していた賃料等の債権を失うことになります。言い換えると、保証会社の代位弁済により賃借人は対賃貸人との関係では、賃料等の支払債務が消滅するということです。そうすると、対賃貸人との関係では、賃借人の賃料等の支払債務がそもそも消滅してしまうので、賃貸人に対する債務不履行の余地も生じなくなってしまい、賃料不払いによる解除は認められないのではとも思えます。
しかし、同判決は上記のとおり判じ、賃貸保証委託契約に基づく保証会社の支払いは代位弁済であって、賃借人による賃料の支払いではないとして、保証会社X2が代位弁済した分も含めて賃借人による賃料不払いがあると認定し、解除を認めました。
同判決は一見すると、上記民法の原則と矛盾する判断のようにも思えます。しかし、私は同判決は賃借人による債務不履行の事実を前提として、信頼関係が破壊されているか否かの判断において、保証会社の代位弁済があるというだけでは賃借人自身による賃料等の支払ではないから、信頼関係破壊が破壊されていることに変わりはないと評価したものにすぎないのではないかと思います。
すなわち、本件では、保証会社による代位弁済を除いても、解除時点で1ヶ月分の賃料の不払いがありました。したがって、賃借人による債務不履行があったこと自体は争いがありません。ただ、賃貸借契約の解除が認められるためには、債務不履行の事実だけではなく、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されているといえる必要があると判例上されています。その信頼関係が破壊されているといえるか否かの判断に限って、同判決は上記の判断をしたにすぎないのではないかというのが私見です。
そのように考えれば、上記の民法の原則と矛盾することなく、同判決を説明することができます。本件と異なり、保証会社が賃借人の賃料等を全て代位弁済し、賃貸人が全ての賃料等を回収できているという事案では、そもそも賃借人による債務不履行の事実がないため、同判決をもってしても、解除は認められないのではないかと思います。
その意味で同判決は限定的に解釈をすべきです。もっとも、少なくとも保証会社による未払賃料等の大部分の代位弁済があっても、信頼関係が破壊されていると判じた点において、賃貸人にとっては有利に、賃借にとっては不利に用いられる裁判例となるでしょう。いずれにせよ、今後の建物明渡実務における影響は大きいかと思います。

 

 

交通事故で受傷した場合の傷害慰謝料について

初めまして。弁護士の森田匡貴と申します。
現在、東京の麹町にある弁護士法人鈴木康之法律事務所という法律事務所にて弁護士として日々不動産、保険、相続、企業法務などを中心とする事件に取り組んでいますが、日頃弁護士業務を通じて、これを皆さまに伝えたら有益ではないかと思うことがあります。そういったことを皆さまに発信できたらよいのではないかと思い、このブログを開設しました。今後最低毎月1回以上更新していきたいと思います。よろしくお願いします。

第1回の投稿では、交通事故で受傷した場合の傷害慰謝料についてです。
交通事故に遭って怪我をした場合、事故の相手方に過失があれば、相手方に対し損害賠償を請求することになりますが、相手方が任意保険に加入している場合は(通常このような場合が多いです。)、相手方が加入する任意保険会社から損害賠償額を提示され、その金額で示談するよう提案されることになります。
しかし、ここで問題なのは、保険会社が提示する示談金の額と裁判で争った場合に裁判で認められる金額とが大きく乖離しているということです。
その乖離の大きな要因の一つに、傷害慰謝料の金額があります。傷害慰謝料とは事故による受傷による精神的苦痛に対する賠償で、怪我が治癒または症状固定(これ以上治療を継続しても症状改善が見込めない状態)になるまで請求することができますが、その算定基準が保険会社と裁判所で全く異なるのです。
任意保険会社の算定基準(これを一般に「任意基準」といいます。)は、法律上自賠責保険が支払う所定の最低限度の賠償額(これを一般に「自賠責基準」といいます。)に多少上乗せした金額で、各保険会社独自の算定基準により事案に応じて算定されます。私の経験では、通院の場合ですが、日額数千円として、実際に通院した日数分のみを積算して算定することが多いように思います。
これに対し、裁判になった場合参照される算定基準は、東京の三弁護士会東京地裁交通部と協議して定めた『損害賠償額算定基準』(通称「赤い本」といいます。)に記載されている算定基準になります(通称「赤い本基準」「弁護士基準」「裁判基準」などといいます。)。関西圏では、大阪弁護士会交通事故委員会の『交通事故損害賠償算定のしおり』(通称「緑の本」といいます。)に記載されている基準(通称「緑の本基準」といいます。)が参照されることもあります。緑の本基準は赤い本基準の90%程度に算定額がとどまることが多いですが、基本的にそこまで大差はありません。そこで、以下赤い本基準と緑の本基準を合わせて、「裁判所の基準」ということにします。
裁判所の基準は、任意基準よりも3割若しくはそれ以上もの金額が高くなります。そこで、交通事故被害者としては、裁判基準での傷害慰謝料の支払を求めたいところですが、任意保険会社は被害者に弁護士が就くなど、裁判を起こされる可能性が生じない限り、裁判所の基準での支払には応じようとしません。その理由は、自賠責保険が支払う最低限度の賠償額を超える部分については、任意保険会社は自賠責保険から回収することができず、負担しなければならないという点にあります。任意保険会社も通常の企業と同様、収益を上げることを目的としていますから、自社の負担額をなるべく抑えた金額で解決を図ろうとするのです。このような保険会社の態度には批判もありますが、保険会社も一企業である以上、やむを得ない側面もあるかと思います。
したがって、裁判所の基準での傷害慰謝料の支払を求めるためには、弁護士への依頼が必要となる場合が多いといえます。弁護士が受任し交渉した場合、必ずしも裁判所の基準どおりの金額に保険会社が応じるとは限りませんが、裁判所の基準の8~9割の金額で示談に応じることが多いです。弁護士に委任する場合、弁護士費用が高額になるのではと心配される方も多いかもしれませんが、自動車保険に弁護士特約を付けていれば、原則として弁護士費用は保険会社が負担してくれます(具体的には各契約内容によりますので、ご確認ください。)。
裁判で認められるはずの賠償額より低い金額での示談を、知らないうちにしてしまう方は、いらっしゃるかと思います。適切な賠償額の支払を受けるためにも、早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。