弁護士森田匡貴のブログ

法律的な記事を投稿するブログです。

交通事故で受傷した場合の傷害慰謝料について

初めまして。弁護士の森田匡貴と申します。
現在、東京の麹町にある弁護士法人鈴木康之法律事務所という法律事務所にて弁護士として日々不動産、保険、相続、企業法務などを中心とする事件に取り組んでいますが、日頃弁護士業務を通じて、これを皆さまに伝えたら有益ではないかと思うことがあります。そういったことを皆さまに発信できたらよいのではないかと思い、このブログを開設しました。今後最低毎月1回以上更新していきたいと思います。よろしくお願いします。

第1回の投稿では、交通事故で受傷した場合の傷害慰謝料についてです。
交通事故に遭って怪我をした場合、事故の相手方に過失があれば、相手方に対し損害賠償を請求することになりますが、相手方が任意保険に加入している場合は(通常このような場合が多いです。)、相手方が加入する任意保険会社から損害賠償額を提示され、その金額で示談するよう提案されることになります。
しかし、ここで問題なのは、保険会社が提示する示談金の額と裁判で争った場合に裁判で認められる金額とが大きく乖離しているということです。
その乖離の大きな要因の一つに、傷害慰謝料の金額があります。傷害慰謝料とは事故による受傷による精神的苦痛に対する賠償で、怪我が治癒または症状固定(これ以上治療を継続しても症状改善が見込めない状態)になるまで請求することができますが、その算定基準が保険会社と裁判所で全く異なるのです。
任意保険会社の算定基準(これを一般に「任意基準」といいます。)は、法律上自賠責保険が支払う所定の最低限度の賠償額(これを一般に「自賠責基準」といいます。)に多少上乗せした金額で、各保険会社独自の算定基準により事案に応じて算定されます。私の経験では、通院の場合ですが、日額数千円として、実際に通院した日数分のみを積算して算定することが多いように思います。
これに対し、裁判になった場合参照される算定基準は、東京の三弁護士会東京地裁交通部と協議して定めた『損害賠償額算定基準』(通称「赤い本」といいます。)に記載されている算定基準になります(通称「赤い本基準」「弁護士基準」「裁判基準」などといいます。)。関西圏では、大阪弁護士会交通事故委員会の『交通事故損害賠償算定のしおり』(通称「緑の本」といいます。)に記載されている基準(通称「緑の本基準」といいます。)が参照されることもあります。緑の本基準は赤い本基準の90%程度に算定額がとどまることが多いですが、基本的にそこまで大差はありません。そこで、以下赤い本基準と緑の本基準を合わせて、「裁判所の基準」ということにします。
裁判所の基準は、任意基準よりも3割若しくはそれ以上もの金額が高くなります。そこで、交通事故被害者としては、裁判基準での傷害慰謝料の支払を求めたいところですが、任意保険会社は被害者に弁護士が就くなど、裁判を起こされる可能性が生じない限り、裁判所の基準での支払には応じようとしません。その理由は、自賠責保険が支払う最低限度の賠償額を超える部分については、任意保険会社は自賠責保険から回収することができず、負担しなければならないという点にあります。任意保険会社も通常の企業と同様、収益を上げることを目的としていますから、自社の負担額をなるべく抑えた金額で解決を図ろうとするのです。このような保険会社の態度には批判もありますが、保険会社も一企業である以上、やむを得ない側面もあるかと思います。
したがって、裁判所の基準での傷害慰謝料の支払を求めるためには、弁護士への依頼が必要となる場合が多いといえます。弁護士が受任し交渉した場合、必ずしも裁判所の基準どおりの金額に保険会社が応じるとは限りませんが、裁判所の基準の8~9割の金額で示談に応じることが多いです。弁護士に委任する場合、弁護士費用が高額になるのではと心配される方も多いかもしれませんが、自動車保険に弁護士特約を付けていれば、原則として弁護士費用は保険会社が負担してくれます(具体的には各契約内容によりますので、ご確認ください。)。
裁判で認められるはずの賠償額より低い金額での示談を、知らないうちにしてしまう方は、いらっしゃるかと思います。適切な賠償額の支払を受けるためにも、早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。