弁護士森田匡貴のブログ

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保証会社が賃料を代わりに支払っていても賃貸借契約は解除される?

こんにちは。3月に入っても寒い日が続きますね。体調を崩しがちな時期なので、皆さま体調管理には十分気を付けてください。そういえば、インフルエンザの予防接種が今年からワクチンが1種類増えて値段も上がったようですね。

さて、今回は建物賃貸借契約で、保証会社が賃料を代位弁済したとしても賃借人自身の賃料不払いの事実に消長はないとして、賃料不払いに起因する同契約の解除を認めた大阪高裁平成25年11月22日判決(判時2234号40頁)を紹介したいと思います。
私は仕事上、建物明渡請求事件に携わることが多いのですが、同判決は賃貸借契約と保証会社の代位弁済の関係についてなかなか興味深い判断をしており、建物明渡実務に与える影響も大きく、重要な判決です。

事案は次のとおりです。
X1は、Yに対して、マンションの一室(本件建物)について、期間を2年間、賃料月額7万1000円、毎月末日限り翌月分支払い、賃料、共益費等の諸費用を2ヶ月以上滞納したときは契約を解除できる等の約定で賃貸しました。
また、X2は、同月25日、月額賃料等の12ヶ月分を上限とするYとの保証委託契約に基づきX1との間で本契約に基づくYの債務について連帯保証しました。
その後Yが賃料等の支払を怠ったため、保証会社であるX2がYに代わってX1に賃料等を代位弁済をしました。X1はYに対し、賃料等の不払いを理由として本契約を解除したとし、本件建物の明渡しを求め、X2はYに対し、保証契約に基づき代位弁済した求償金39万円等の支払いを求めました。一審ではX1・X2の請求が認められましたが、Yが控訴しました。

Yは、X2が保証委託契約に基づきX1に対し平成24年4月分から平成25年1月分までの賃料は代位弁済しているから、Yの契約解除時点での不払賃料は平成25年2月の1ヶ月分にすぎず、これでは信頼関係を破壊しているとはいえないので、解除は無効であるなどの主張をしました。
これに対し、同判決は、賃貸保証委託契約に基づく保証会社の支払いは代位弁済であって、賃借人による賃料の支払いではないから、賃料不払いという賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかであるとして、上記Yの主張を排斥し、X2が代位弁済した分も含めて平成24年4月分から平成25年3月分までの賃料等の不払いの事実があると認定し、X1とYとの信頼関係は破壊されているとして、X1・X2の主張を認め、Yの控訴を棄却しました。Yは最高裁に上告及び上告受理申立てをしましたが、上告棄却・上告不受理の決定が出て、本判決が確定しています。

この判決をどう見るべきでしょうか。通常、民法の原則では、保証人が保証債務の支払いをすれば、保証債務が消滅し、債権者が主債務者に対し有していた保証の対象となっている債権は、弁済による代位の規定(民法500条)により保証人の主債務者に対する求償のために保証人に移転します。そうすると、保証会社が賃借人の賃料等を代位弁済することにより、賃貸人は賃借人に対して有していた賃料等の債権を失うことになります。言い換えると、保証会社の代位弁済により賃借人は対賃貸人との関係では、賃料等の支払債務が消滅するということです。そうすると、対賃貸人との関係では、賃借人の賃料等の支払債務がそもそも消滅してしまうので、賃貸人に対する債務不履行の余地も生じなくなってしまい、賃料不払いによる解除は認められないのではとも思えます。
しかし、同判決は上記のとおり判じ、賃貸保証委託契約に基づく保証会社の支払いは代位弁済であって、賃借人による賃料の支払いではないとして、保証会社X2が代位弁済した分も含めて賃借人による賃料不払いがあると認定し、解除を認めました。
同判決は一見すると、上記民法の原則と矛盾する判断のようにも思えます。しかし、私は同判決は賃借人による債務不履行の事実を前提として、信頼関係が破壊されているか否かの判断において、保証会社の代位弁済があるというだけでは賃借人自身による賃料等の支払ではないから、信頼関係破壊が破壊されていることに変わりはないと評価したものにすぎないのではないかと思います。
すなわち、本件では、保証会社による代位弁済を除いても、解除時点で1ヶ月分の賃料の不払いがありました。したがって、賃借人による債務不履行があったこと自体は争いがありません。ただ、賃貸借契約の解除が認められるためには、債務不履行の事実だけではなく、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されているといえる必要があると判例上されています。その信頼関係が破壊されているといえるか否かの判断に限って、同判決は上記の判断をしたにすぎないのではないかというのが私見です。
そのように考えれば、上記の民法の原則と矛盾することなく、同判決を説明することができます。本件と異なり、保証会社が賃借人の賃料等を全て代位弁済し、賃貸人が全ての賃料等を回収できているという事案では、そもそも賃借人による債務不履行の事実がないため、同判決をもってしても、解除は認められないのではないかと思います。
その意味で同判決は限定的に解釈をすべきです。もっとも、少なくとも保証会社による未払賃料等の大部分の代位弁済があっても、信頼関係が破壊されていると判じた点において、賃貸人にとっては有利に、賃借にとっては不利に用いられる裁判例となるでしょう。いずれにせよ、今後の建物明渡実務における影響は大きいかと思います。